新聞配達のバイトの思い出

僕はすごく純粋な高校生だった。

 

新聞配達を始めたのは中学生の頃から。
別に家計が苦しかったわけでもない。
しいていえば、釣りが大好きで
夜のイカ釣りをしてみたかった。

 

同級生の話だと、深夜に港に行くと、
釣り好きのおっちゃん達がたくさんいて、
夜釣りを楽しんでいるという。

 

ある夜、こっそり家を抜け出して
噂の港へ出かけた。
かじかむ手に息をふきかけながら
自転車のペダルをこいだ。

 

港につくと確かに大勢の釣りキチなおじさんが楽しんでいた。

 

一気に僕のテンションはMAXへと達し、
さらにペダルをこいで近づくと、いっせいににらまれた。

 

「ライトを消せ!」

 

そう、夜釣りにおいて一番NGなのが明かりなのだ。
僕が自転車のライトをつけたまま近寄っていったから
おじさんたちの怒りに火をつけてしまったのだ。

 

怒られたものの、
その非現実な光景がたまらなくて、一晩中興奮した。

 

それからというもの、度々、夜になると港へ出かけた。
純粋にみんなの釣りをみている僕を気遣ってか
次第におじさんたちが話しかけてくれるようになり、
仲良くしてもらえるようになった。

 

話は長くなったが
僕は夜釣りを楽しみたいがために新聞配達をはじめた。
新聞配達をすれば深夜に家を出れる口実ができ、
親へ心配をかけなくてすむからだ。

 

同級生はフシギがったが
晩御飯を食べると午後9時前には寝て、
午前3時前に起きて、港へ行き、
夜釣りを楽しんだ。
釣れる釣れないはどうでもよく、
ただそこで釣り糸をたらすだけでよかった。
4時半頃になると、
おじさんたちに「行ってきまーす!」と言って、
新聞配達のバイトへ。

 

心が満足しているから配達中も全く苦にならない。

 

いろんな妄想をしながら朝方まで多いときは300件ほど配っていた。

 

配り終わり、家路へと向かっていると
通勤通学の人々とすれ違う。
今日という現実の始まりとのすれ違い。

 

そんな日々を高校卒業まで続けた。
釣り以外にたいして興味のあるものがなかった僕は
気付けば200万程の貯金が出来ていた。

 

幸いにして、今、一生をともにできると思える恋人がいる。

 

そして、
あいかわらずドマジメであか抜けない僕を友人は笑うが
どんなに苦しい時でもあえて手を出さなかった新聞配達のバイトでの貯金は
彼女への愛の印に変えたいと思っている。

 

 

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